1. 富岡製糸場開業150周年 【時評事評①】

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学長室より

富岡製糸場開業150周年 【時評事評①】

    

私は中学か高校の頃、社会科の教科書だったか、富岡製糸場のことを習ったのを思い出します。九州の片田舎に生まれて頭の中にしかなかった富岡製糸場、それが立派な世界遺産としてすぐ近くにあるというのは、なんとも不思議な気がします。しかも、高齢者となった今、自分が時間的にも富岡製糸場に近づいている錯覚を覚え親しみさえ湧いてくるのです。

富岡は「日本資本主義発祥の地」であり、近代化の中心的役割を果たしました。それほどの歴史的遺産ですから、私は今に通じるきっと大切なものがあるに違いないとの思いもあり、渉猟できた関連文献や史料をもとに文章を書いたことがあります(※)。(写真は、富岡市観光HP、掲載紀要)

地域経済論1回9月21・23日(◆当日・後期・授業後) - PowerPoint 2022_09_17 17_04_39.png  富岡.png

拙文のあらましを、ここに改めてみてみますと―

(1)日本型経済の形成

 ① 製糸場は「西洋技術」を導入・改良し日本の近代化を拓いた歴史的モニュメント。後発国発展の「ビジネスモデル」となりました(紀要p.2)。

 ② 都会ではなく、地方に地域資源を活かした大規模工場をつくり、国益につなげました(p.3)。今の「地方創生」政策です。

 ③ その設立・運営に尽力した渋沢栄一は「公益なくして私益なし」の精神に徹しました。近代経済は「富岡資本主義」(p.4)として始まりました。

(2)日本的経営の始まり

 ① 官営工場であっても「採算度外視」ではなく、長期の展望にたち収益の拡大と社会貢献を両立させ、民営化の道を探りました(p.7)。

 ② 富岡工女は「伝習工女」と呼ばれ、その手法は現代の企業内人材育成の原型となって定着しています(p.9)。

 ③ 電灯のない当時、労働時間は太陽光のもと夏は長く冬は短くなり、照明が普及すると「夜業」(よなべ)が行われ「夜食」が提供されました(p.11)。

このほか、拙文では今日につながるさまざまな日本的特質-「一斉採用・昇進」、「賞与・退職(褒賞)」、「勤続表彰」、「労働評価・賃金決定」の

原型・仕組みなどを明らかにしました。

本学には、地元はじめ全国から入学者がありますが、卒業後ふるさとに戻り、かつての「伝習工女」のように各地域の発展のために活躍する人材も増えています。

 ※「官営・富岡製糸場にみる日本的企業経営の源流-日本型市場経済の原型を求めてー」『高崎商科大学コミュニティ・パートナーシップ・センター紀要』(第2号、2016年)掲載

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