1. 「公益資本主義」は「新しい資本主義」なのか 【読書考②】

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学長室より

「公益資本主義」は「新しい資本主義」なのか 【読書考②】

    

学生のみなさん、まもなく夏休み、大いに書を読み思索を重ね視野も広げましょう。ご参考になればと読書考2回目です。

さて、デフレ不況とかリーマンショック、コロナショックのような何かの節目で、資本主義は「いかにあるべきか?」とか、「どこへいこうとしているのか?」などと問われます。昨今耳にする「新しい資本主義」も気になります。

前回の名和高司氏の「志本主義論」に続けて、今回は「公益資本主義論」と「渋沢資本主義論」を紹介しましょう。

 ➀「公益資本主義」

これについては、原丈人氏の『新しい資本主義』(PHP新書、2009年)、大久保秀夫氏著『みんなを幸せにする資本主義』(東洋経済新報社、2016年)などがあります。

大久保、原の両氏は、ほぼ同じような考え方で、アメリカ型の経済すなわち―「市場万能主義」にもとづく私益重視の「株主資本主義」に対して、日本型「公益資本主義」の「優位性」を説かれています

わが国に、アメリカ的な株主利益第一の企業経営を安易に導入すれば、デフレ脱却どころか賃金も上がらず所得格差がさらに拡大、にっちもさっちもいかなくなると警鐘をならしています。

株式投資を奨励する、いま話題のいわゆる「資産所得倍増」論(NISA)は、アメリカ流の株価本位経済になるおそれもあり、これに対して、株主を含め関係者がみんな等しく利益にあずかる「公益資本主義」こそ、わが国を苦境から救ってくれる「新しい資本主義」ではないか、という論調です。

②「渋沢資本主義」

周知のように、ここ数年、日系企業のさまざまな不祥事―品質不正や粉飾決算などの問題が目立ちます。永野健二氏の『経営者-日本経済生き残りをかけた闘い―』(新潮社、2018)は、時宜を得た「渋沢資本主義」論です。

新聞記者の出身らしく、財界・各業界のわが国を代表する錚錚たる経営者たちの言動がドラマチックに再現されており、読み手に緊迫した臨場感まで伝わってきます。

かつて、氏と同業で、その後、ご縁あって本学の教授を勤められた硲宗夫(はざま むねお)氏による大スクープ「八幡・富士合併―新日鉄誕生」のくだりは、本書白眉の一つ。その合併劇の立役者・永野重雄氏(新日鉄初代会長)は「渋沢栄一の企業家精神と公益性を受け継いだ」人、つまりは、日本経済全体の利益を考える「渋沢資本主義の体現者」であった、と評しています。

こんにち、企業不祥事を乗り越えるべく会社経営の刷新など日本経済の「バージョンアップ」を考えるとき、本書はまさしく公益の観点に立つことの重要性を数々の実例を通して教えてくれています。

ちなみに、私は、「囲碁」好きでもあった渋沢翁が、業界共存の「善意の競争」を説いていたことに注目しています(拙著『イゴノミクスの世界』幻冬舎、2019)。

・先日、学内で私担当の「社会人講座」において、「21世紀『資本主義』の新しい姿」をテーマに、現代版「経済成長モデル」、いわゆる「国家資本主義」、「第4波コンドラチェフ」など、さまざまな視点を織り交ぜて現代経済社会の核心に迫ろうと試みました。ご出席のみなさま、ありがとうございました。(写真は、当日の講座)

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