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"地域"を"プロデュース"する、「地域プロデューサー」ってどんな仕事?

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「地方創生」「地域活性化」などの言葉をよく耳にする近年、地方のカギを握っている役割の一つが「地域プロデューサー」です。地域をプロデュースするとは一体どのようなことなのでしょうか? また、そもそもどうして地方を元気にする必要があるのでしょう? そんな疑問について、社会学、市民活動論、非営利組織(NPO/NGO)論、地域政策などを専門とする松元一明准教授に聞いてみました!

「地域プロデューサー」はどうして必要なの?

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聞き手
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そもそも「地域プロデューサー」とはどんな役割ですか?

松元先生
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「地域プロデューサー」とはその名の通り、地域をプロデュースする、"地域づくりのスペシャリスト"のことです。自治体や企業、地元住民などと連携しながら、地域の活性化を目指していきます。

聞き手
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地域プロデューサーが求められたり、地域活性化が必要とされたり、今、どうして地域を元気にする必要があるんですか?

松元先生
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以前は、大都市が中心で地方がそれを支えるという社会モデルがつくられていました。しかし、現在は地方の人口が減って、全国の約半数の市町村が近い将来消滅の危機にさらされているなど、従来の社会モデルではうまくいかなくなってきているんです。

また、今の地方ってどこも似てきていると思いませんか? どこの地方都市でも、再開発された似たような駅前があって、大型ショッピングモールがあって、というような。

聞き手
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確かに、よく見る風景ですね。

松元先生
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このような没個性的、画一的な地方が増えてくることに、僕は危機感を感じています。

それぞれの地域ごとにいろんな特色があるはずだし、多様性があるからこそ地方って面白いと思う。地方がそれぞれの個性を発揮して魅力を保ち続けるために、地方を盛り上げる動きは必要だと思うんです。

聞き手
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ちなみに、地域活性化がうまくいっている地方の例はありますか?

松元先生
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例えば、島根県の隠岐諸島の一つである海士(あま)町ですね。十数年前までは財政難や人口減少に直面していたのですが、町長を中心としたユニークな地域おこしによって危機を脱し、注目を集めています。

島民による「島の幸福論」という計画は素晴らしいです。

聞き手
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「島の幸福論」?

松元先生
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はい。それぞれの自治体では「総合計画」という、行政の運営を行う上での基本となるものが策定されます。本来は行政側でつくるものなんですが、海士町は、「島の幸福論」をテーマに掲げて、島民たち自身が話し合いながら総合計画をつくっていったんです。

聞き手
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へえ!

松元先生
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この「島の幸福論」に基づいて、特産物をブランド化したり、廃統合が危ぶまれていた島内の高校へ日本全国から高校生を「島留学」というかたちで受け入れ、島ならではの文化、豊かな自然などを学んでもらいつつ、外からの刺激を受けたりと、さまざまな活動を行っています。

他にも、Iターン移住者が住みやすいような環境を整えたり。今は島民の20%以上がIターンで移住した人たちなんですよ。

地域プロデューサーに向いているのは「つなぎ役」ができる人

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聞き手
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地域プロデューサーに大切なのはどんなことなのでしょうか?

松元先生
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地域プロデューサーは、その地域のどういう人がどういうスキル、人間関係、考え方を持っているのかを知って、「この人とこの人を結びつけるとこんなことができるだろうな」とか、"マッチングによる化学反応"を促してあげることが大切だと思います。

先ほど話した海士町のように、地方創生はやっぱり、その地域をよく知っている住民たちが主役になっていかなくてはならないものですから。

また、地方に限らず、関係が希薄になった都心部におけるコミュニティ再生にも同様のことが言えます。

聞き手
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"プロデューサー"っていうと、カリスマ性のあるリーダーっていうイメージがありましたが、少し違いますね。

松元先生
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もしカリスマ性のあるリーダーを呼んで一時的にその地域が元気になったとしても、その人がいなくなった途端に元に戻ってしまうかもしれません。地域活性化に大切なのは「持続性」なんです。

だから、地域プロデューサーには、つなぎ役ができる人や下から住民を支えてあげる「フォロワーシップ」の能力を持っている人が向いていると思います。

あとは誠実な人。特に弁が立たなくても「ちゃんとこの地域のことを知ろう」「この人は何を考えているのかを分かろう」というマインドを持っている人がいいと思いますね。

ショッピングモールを新しい地域交流の場所に

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聞き手
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先生のゼミでも、地域づくりに関するプロジェクトを行っているそうですね。

松元先生
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はい。ゼミや学内公募の学生と地域に出ています。この前は、大型ショッピングモールが昔の商店街のように、地域の人たちが交流したり、地域のことを知ったりする場所になるようなイベントや仕掛けを考え、実施しました。

ショッピングモールというと画一的なイメージがありますが、「今後は地域と共生していかないといけない」「地域とつながりたい」「地域の人のハブになりたい」という考えを持っています。その考えと、僕たちの「地域を元気にしたい」という思惑が一致したんです。

聞き手
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例えばどんなことをしたんですか?

松元先生
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学生たちのアイデアをもとに、ショッピングモールにウォールアートを用意して、みんなが集まるようなコミュニティをつくったり、地域のことを考えてもらうために、群馬県を中心とした絶滅危惧種の展示をしたりしました。

聞き手
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家族で楽しめそうですね!

松元先生
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ショッピングモールの他にも、ファミレスとのコラボも行いました。ファミレスも同じく画一的で、どこに行っても同じメニューが食べられるじゃないですか。その特性を逆手にとって、地域性を強く出した店舗があってもいいんじゃないかと考え、高崎の店舗ならではのメニューを開発したり、高崎にゆかりのある映画監督のトークショーを店舗内で企画・実施したりしました。

聞き手
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時代に合わせた新しい地域づくりですね。ゼミの他にもこのような実践的な授業を行っているんですか?

松元先生
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はい。例えば「地域プロデュース」の授業では、地域イベントの実行委員会に学生に入ってもらって、地域のいろんなグループの代表者に交じって、イベントをどういう風にハンドリングしていくかを学んでもらっています。

「こういうことをやりたいから学生の知恵を借りたい」「こういうイベントがあるので学生に手伝ってもらいたい」など、高崎商科大学には地域からいろいろな要望があります。学生が実行委員としてコアメンバーに入れる機会はなかなかないので、声をかけてくださる地域の皆さんに対してありがたいなと思っているし、これからも貢献をしていきたいと思っています。

聞き手
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学生にとってもいい経験になりそうですね。では最後に、読者の高校生に向けてメッセージをお願いします。

松元先生
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大学って、「これが気になる」とか、ちょっとした興味のあることがあれば、それを引き出したり、支えてくれたりする人がたくさんいます。自分次第で何でもできるすごく楽しいところだと思います。

「こういうのはどうだろう?」って提案してくれる先生もいるし、知的な好奇心も満たしてくれる。たくさんの仲間とも出会えるいろんな可能性を秘めた場所だと思うので、ぜひ楽しみに来てくださいね!

先生の必需品!

地域の人に話を聞くときに使うICレコーダー

「もう10年以上使っています。」(松元先生)

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今回インタビューした教授

商学部 経営学科

松元 一明 准教授

(著書)
『魅力創造するマーケティングの知-地域再生とデザインの視座』(共著)同友館、2017年

(単著論文)
・「富岡市観光におけるリピーターの研究:<富岡製糸場における観光客満足度調査>の分析を通じて(その2)」『高崎商科大学コミュニティ・パートナーシップ・センター紀要』第5号、2019年7月
・「若者の地元定着に関する考査-大学生の地元への愛着と誇り、ボランティア意向と就労意向の相関から-」『高崎商科大学紀要』第33号、2018年12月
・「市民活動による市民セクターの生成―P・L・バーガーの理論とペストフの図式を利用して(1)(2)」『成蹊大学文学部紀要』第 50/51 号、2015/2016 年 3 月

(共著論文)
・「居住 8年目を迎えた岩手県陸前高田市仮設住宅における被災者の暮らし: 被災住民のエンパワメント形成支援による地域再生の可能性と課題 Ⅷ」『現代福祉研究』第 19 号、2019 年 3 月
・"Living environment, health status, and perceived lack of social support among people living in temporary housing in Rikuzentakata City, Iwate, Japan, after the Great East Japan Earthquake and tsunami: A cross-sectional study" International Journal of Disaster Risk Reduction; Vol.21(March 2017)

松元 一明 准教授